包丁の材質

包丁の材質は大まかに

  • 鋼(はがね)
  • ステンレス
  • セラミック

の3種類に分類されるとご紹介しましたが、鋼とステンレスは厳密にはさらに細かく分類されます。

鋼(はがね)

鋼(はがね)とは炭素を0.04~2%含む鉄の合金の事で炭素鋼とも呼ばれます。

 

一般的に包丁に使われる炭素鋼はJIS(日本工業規格)で定められているSK材と、日立金属が製造する安来鋼(やすきはがね)の2種類です。

 

SK材から不純物を低減させたのが安来鋼になります。安来鋼はさらに「白紙」「黄紙」「青紙」に分類されます。

 

黄紙シリーズ

SK材から不純物を低減させたもので、切れ味に優れています。

 

焼き入れがラクで安価なので、主に一般家庭用包丁に使われます。

 

白紙シリーズ

黄紙2号から不純物を極力低減させたもので、切れ味が良く、砥ぎ易い理想的な炭素鋼です。

 

日本刀の鋼材として使用される玉鋼(たまはがね)に組成的にもっとも近くなっています。

 

炭素量の多い順に1号、2号、3号とランク分けされ、炭素量が多いと硬度が高く靭性(粘り)が低くなり、炭素量が少ないと硬度が低く靭性(粘り)が高くなります。

 

主に高級和包丁に使われ、和食料理人に一番人気がある材質です。

 

青紙シリーズ

白紙2号にタングステンとクロムを添加し、耐摩耗性を高めると同時に研削性を低めたもので永切れします。

 

炭素量の多い順にスーパー、1号、2号とランク分けされていますが、スーパーはさらにクロム、タングステン量が増加されHRC(硬度)67前後という炭素鋼の中でも最高の硬度を誇っています。

 

黄紙、白紙に比べて高価で、高級包丁に使われます。

 

硬度が高いがゆえに研ぎにくく好き嫌いがわかれます。

 

刃物はただ硬度が高ければいいというものではなく、適度の粘りを持たせることで切れ味をよくし、刃こぼれを防ぐ意味で有効です。

 

粘りを要求される用途には炭素量が低く、切れ味や耐摩耗性が要求される場合には炭素量が高い材質を選びます。

 

規格記号 化学成分(%) 硬さ
C Si Mn P S Cr W HRC
黄紙2号 1.05 ~1.15 0.10~0.20 0.20~0.30 0.030以下 0.006以下 60以上
白紙1号 1.25 ~1.35 0.10~0.20 0.20~0.30 0.025以下 0.004以下 60以上
白紙2号 1.05 ~1.15 0.10~0.20 0.20~0.30 0.025以下 0.004以下 60以上
白紙3号 0.80 ~0.90 0.10~0.20 0.20~0.30 0.025以下 0.004以下 60以上
青紙1号 1.25 ~1.35 0.10~0.20 0.20~0.30 0.025以下 0.004以下 0.30~0.50 1.50 ~2.00 60以上
青紙2号 1.05 ~1.15 0.10~0.20 0.20~0.30 0.025以下 0.004以下 0.20~0.50 1.00 ~1.50 60以上
青紙スーパー 1.40 ~1.50 0.10~0.20 0.20~0.30 0.025以下 0.004以下 0.30~0.50 2.00 ~2.50 60以上

 

青紙スーパー

↑ C、Cr、W量増加

特殊溶解

  (硬さ、耐摩耗性+ 研削性-)

青紙2号

 C量増加→

(硬さ+ 靭性-)

青紙1号

↑ W、Crの添加

 (焼入性、耐摩耗性+研削性-)

白紙3号

← C量低下

(靭性+ 硬さ-)

白紙2号

 

 C量増加→

(硬さ+ 靭性-)

白紙1号

↑ 不純物低減

黄紙2号

↑ 不純物低減

JIS SK材

 

ステンレス

ステンレスとは鉄を主成分とし、クロム含有量10.5%以上でさびにくい合金鋼の事でステンレス鋼(SUS)とも呼ばれます。

 

鋼材メーカーによって、様々な工夫がされたステンレス鋼が多数製造されています。

 

その中でも刃物用として代表的な材質をいくつかご紹介します。

 

AUSー6M

愛知製鋼。

 

炭素含有量0.55~0.65%でHRC58。

 

クロム含有量13~14.5%。加工しやすく大量生産に向いていて主に安価な包丁に使われます。

 

AUSー8

愛知製鋼。

 

炭素含有量0.70~0.80%でHRC59。

 

他の成分はAUSー6Mと変わらず性能面においても大差はありません。

 

こちらも加工しやすく大量生産に向いていて主に安価な包丁に使われます。

 

銀1

日立金属。

 

炭素含有量0.80~0.90%でHRCは57以上ですが、クロム含有量15~17%ありモリブデンを添加しているため、錆びにとても強く主に家庭用三徳包丁に使われます。

 

銀3

日立金属。

 

炭素含有量0.95~1.10%でHRC59以上という炭素鋼並みの硬さと切れ味を得られるます。

 

主に高級和包丁に使われます。

 

ATS34

日立金属。HRC59以上。ナイフ用鋼材として開発され、硬度、耐食性、耐摩耗性、靭性などのトータルバランスのすぐれた鋼材として世界的な評価を得ています。

 

ZDP189

日立金属。

 

ステンレス鋼の中でも粉末ハイス鋼に分類され、HRC67以上という最高硬度を誇ります。

 

粉末冶金法によって製造した3C-20Crを基本とする成分で、近年注目を集めています。

 

硬度、耐食性、耐摩耗性、靭性において、最高峰の鋼材ですが、高硬度のため刃付けが難しく、砥石で研ぐのも困難を極めます。

 

V金10号

武生特殊鋼材。

 

炭素含有量0.95~1.05%でHRC57以上あり、クロム含有量14.5~15.5%、コバルト含有量1.3~1.8%で、硬さと切れ味と耐食性を兼ね備えています。

 

主に業務用洋包丁に使われます。

 

SUS440C

アメリカで開発。

 

炭素含有量0.95~1.20%でHRC58以上あり、クロム含有量16.0~18.0%で、錆に強いナイフ用鋼材。

 

耐摩耗性、靭性が高く、刃持ちもよくバランスがいいため大量生産向きで主に安価な包丁に使われます。

 

次にステンレスの名称としてよく使われる材質の意味をご説明します。

 

スウェーデン鋼

スウェーデンで生産される鋼の総称です。ス

 

ウェーデン鋼には中級、高級を含め各製鋼メーカーに炭素鋼、特殊鋼をあわせると1000種類以上の鋼があります。

 

ハイカーボンステンレス

刃物用ステンレス鋼のなかでも炭素含有量が高い材質の総称です。

 

モリブデンバナジウム鋼

ステンレス鋼にモリブデンとバナジウムが添加された材質の総称です。

 

モリブデンは焼き入れ性を良くし、強度や粘り強さを高め、バナジウムは強度を高めたり耐摩耗性を高めます。

 

コバルト合金

ステンレス鋼にコバルトを添加した合金の総称です。

 

代表的な鋼材としてV金10号があげられます。

 

粉末ハイス鋼

もともとハイス鋼と呼ばれる高速度鋼はドリルやエンドミルなどの工具鋼として開発されたもので、鋼にクロムやタングステン、モリブデン、バナジウムといった金属を添加した耐衝撃性、摩耗性、耐熱性にも優れたステンレス系の鋼材です。

 

粉末ハイス鋼はそのハイス鋼を主原料とし、鋼材内部組織の微細化を図った粉末冶金法という製法で造られています。

 

高温で一度粉末状にした鋼材を圧力と熱を用い焼き固める粉末冶金法で造られたハイス鋼は、通常のステンレス系鋼材に比べムラが非常に少なく高い硬度が出せるため、ステンレス系の鋼材の中では最高峰と云われています。

 

刃は耐熱性が強く通常のステンレス鋼に比べ非常に硬く仕上がるため、切れ味も非常に鋭く長切れしますがその分研ぎづらさも出てきます。

 

ダマスカス鋼

木目状の模様を特徴とする鋼で、古代インドで開発製造されたウーツ鋼の別称です。

 

ダマスカス鋼の名の由来は、インド産のウーツ鋼を使用し、シリアのダマスカスで刀剣などに鍛造されたことから、この名がつきました。

 

ウーツ鋼によるダマスカス刀剣の製法は1750年頃を最後に失われた技術となっています。

 

現在は異種の金属を積層鍛造して模様を浮かび上がらせた鋼材もダマスカス鋼と呼ばれていますが、本来のダマスカス鋼の模様はるつぼによる製鋼における内部結晶作用に起因するものです。

 

規格記号 化学成分(%) 硬さ
C Si Mn P S Cr W Mo V Co HRC
AUSー6M 0.55~0.65 0.80以下 0.85以下 0.040以下 0.005以下 13.00~14.50 - 0.10~0.30 0.10~0.25 - 58以上
AUSー8 0.70~0.80 0.80以下 0.50以下 0.040以下 0.005以下 13.00~14.50 - 0.10~0.30 0.10~0.25 - 59以上
銀1 0.80~0.90 0.35以下 0.45~0.75 0.030以下 0.020以下 15.00~17.00 - 0.30~0.50 - - 57以上
銀3 0.95~1.10 0.35以下 0.60~1.00 0.030以下 0.020以下 13.00~14.50 - - - - 59以上
ATS34 14Cr-4Mo 59以上
ZDP189 3C-20Cr 65以上
V金10号 0.95~1.05 0.35以下 0.30~0.50 0.030以下 - 14.5~15.5 - 0.8~1.2 0.25~0.35 1.3~1.8 57以上
SUS440C 0.95~1.20 1.00以下 1.25以下 0.040以下 0.030以下 16.00~18.00 - 0.75以下 - - 58以上

包丁の材質の硬さ

包丁の硬さを表すのに「HRC」、ロックウェル硬さのCスケールを使用した測定法で評価されています。

 

ロックウェル硬さとは、1914年にアメリカのロックウェル氏によって特許申請された試験法で、世界的に工業界で最も広く使用されています。

 

英語表記「Rockwell hardness」の頭文字を取ってHRと記号されます。

 

ロックウェル硬さは、先端半径0.2 mmかつ先端角120度のダイヤモンド円錐と1/16インチの鋼球、2種類の圧子を使う方法があります。

 

まず基準面に基本荷重をかけ、次に試験荷重を加え、塑性変形させます。

 

その負荷を基準荷重に戻し、この時の基準面からの永久窪みの深さを読み取ります。

 

試験機には、スケールと称して、押し込みに使用する圧子の種類、試験荷重の大きさ及び硬さ算出式の組み合わせに固有の硬さ記号を設けています。

 

Cスケールの場合、ダイヤモンド円錐を使い、基本荷重10㎏f、試験荷重150㎏fで測定し、基準面からの永久深さh(mm)とすると
HRC=100-500h
の計算式で求められます。

 

HRCは数値が高いほど硬いことになり、一般的にHRC52~56は安価な包丁、HRC57~59は一般家庭用包丁、HRC59~62は業務用洋包丁、HRC60~65は業務用和包丁に分類されます。

 

HRCは0から70の間で使われます。

包丁の材質の化学成分の効果

名称 記号

効果

炭素 C 硬さ強度を増す根本元素。刃物鋼には通常0.6~1.5%含まれます。その鋼の性質によって適正な含有量があり必要以上に多いと脆さと錆び易さが出ます。
ケイ素 Si 普通0.30以下としてありますが、多いことは禁物です。これが多いと曲げに耐える性能も悪くなり、火造りにもろさが出ます。
マンガン Mn 少量(1%未満)添加すると鋼の硬さ、粘り強さを増します。硫黄の悪影響を取り除いたり焼き入れ易くする役割も果たします。
リン P 有害で、特に低温に於いて、もろさをあらわします。炭素が多い程著しくなります。結晶粒で粗大にし、かたまり易く、衝撃にも弱くなり、加工の際亀裂を生じやすくなる等良質の刃物鋼には最もきらわれる不純物です。
硫黄 S 非常に有害で、鍛錬性を悪くし、火造りの際はもろくなり伸びや絞り、衝撃にも耐えることが出来なくなります。
クロム Cr この元素を若干添加された刃物鋼は鋼の粒子が高温になっても粗くなるのを防ぐと共に焼きが硬く内部迄均一にはいりやすく、刃物の切味、磨耗抵抗を著しく増します。これはまたタングステンと共に加えることにより、よりその効果が上がります。
タングステン W 粒子を微密にし、耐摩耗性を上げ、焼きが入り易くします。強力な複合炭化物を作り焼き戻し抵抗性・強度・熱間強度を増します。
モリブデン Mo 焼きが入り易くなり粘り強く刃こぼれが起き難くなります。切れ味や耐磨耗性が上がり、研ぎ上がりがよくなります。炭素と結合し複合炭化物を作ります。
バナジウム V 焼き戻し抵抗性を増し2次効果作用があり強度を増す粘り強くし刃こぼれを起こし難くします。組織を微細化し刃の欠けを防ぎます。
ニッケル Ni 少量(0.5%未満)加える事で焼きが硬く均一に入ります。粘り強さを増し、組織を微細化し刃の欠けを防ぐ地金に加える事で、光沢感をまし錆難くします。
コバルト Co 刃の欠けを防ぎ素地を強化し炭化物の脱落を防ぎます。高炭素鋼に添加する事で、高硬度と強靭性を両立させます。